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名古屋地方裁判所 平成6年(行ウ)31号 判決 1996年3月22日

安城市南町二番一四号

原告

大和グレート株式会社

右代表者代表取締役

鈴木栄二

右訴訟代理人弁護士

大場民男

刈谷市神明町三丁目五〇一番地

被告

刈谷税務署長 奥村富治弘

右指定代理人

泉良治

同右

山本英樹

同右

木村勝紀

同右

小田嶋範幸

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告が原告に対し平成四年九月三〇日付けでした原告の平成三年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度に係る法人税の更正及び過少申告加算税の賦課決定をいずれも取り消す。

第二事案の概要

一  争いのない事実等

1(一)  原告は、青色申告の承認を受けた株式会社である。

(二)  原告は、スズキ鋳鉄工業株式会社((以下「スズキ鋳鉄」という。)に対して有していた合計七六二四万九〇六一円の貸金債権((以下「本件貸金債権」という。)につき、平成三年一二月二七日付けの書面によりその回収不能を理由として債権放棄の意思表示をした(以下、これを「本件債権放棄」という。)。

(三)  そして、原告は、平成四年三月二日、原告の平成三年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度(以下「本件係争年度」という。)の法人税につき、被告に対し、本件債権放棄により七六二四万九〇六一円の損失が生じたとして、別表1「本件係争年度の課税の経緯」の「確定申告」欄記載のとおり本件事業年度の法人税確定申告(青色)((以下「本件確定申告」という。)をした。

(四)  しかし、被告は、平成四年九月三〇日、原告に対し、別紙「更正の理由」記載の理由を附記した上、別表1「本件係争年度の課税の経緯」の「更正及び賦課決定」欄記載のとおり更正(以下「本件更正」という。)及び過少申告加算税の賦課決定((以下「本件賦課決定」といい、本件更正と合わせて「本件各処分」という。)をした。

(五)  そこで、原告は、本件各処分につき、平成四年一一月二五日、被告に対して異議申立てをし、平成五年三月二二日、国税不服審判所長に対して審査請求をしたが、いずれも棄却された。

2  本件債権放棄までの事情

(一) 原告の代表取締役である鈴木栄二((以下「栄二」という。)は、実兄鈴木栄一((以下「栄一」という。)が経営していた鈴木商店(個人営業)に営業担当員として勤務していたが、昭和五八年四月一九日、鈴木商店の製造する鋳鉄製品(グレート)を販売するため、土木用鋳鉄製品の販売業を主たる目的とする原告(資本金一〇〇万円)を設立し、その代表取締役に就任した。また、栄一も、原告の取締役に就任した。

他方、栄一は、昭和六一年一二月一二日、鈴木商店を法人化し、上下水道用鋳物鉄蓋の製造販売業を主たる目的とするスズキ鋳鉄(資本金五〇〇万円)を設立して、その代表取締役に就任した。また、栄二もその取締役に就任した。

(二) 原告は、設立当初から昭和六二年ころまで、仕入れのほとんどをスズキ鋳鉄(鈴木商店)に依存し、その間、スズキ鋳鉄(鈴木商店)においても、原告に対する売上げが大きな割合を占めていた。

(三) ところで、栄一は、鈴木商店のころから、手形決済資金などの運転資金が不足すると、その融通を原告に依頼し、原告も、スズキ鋳鉄(鈴木商店)が原告の主要な仕入先であり、しかも栄一と栄二が兄弟であったことから、支払期限を定めず、また、担保を徴したり返済計画の策定を求めたりすることもなく、これに応じて融資を行っていた。

(四) 原告は、スズキ鋳鉄(鈴木商店)からの納品をもって右融資資金の返済を受けていたため、当初は、この融資金を「(仕入代金の)前渡金」として処理していたが、融資金が累積し高額になったため、昭和六二年ころからは、これを貸金債権として処理した上、年六パーセントの利息を徴することとし、その旨スズキ鋳鉄に伝えた(なお、原告は、スズキ鋳鉄から運転資金の不足を理由に商品代金の支払を求められたときには、その求めに応じていた。)。

昭和六一年一二月期においては、原告のスズキ鋳鉄(鈴木商店)に対する公表帳簿上の「前渡金」残高は、七一五万一三二二円であったが、昭和六二年一二月期には六九五七万四〇五七円(ほか未収利息二三〇万七四五四円)と急増し、昭和六三年一二月期には七四一八万七二〇七円(ほか未収利息二三〇万七四五四円)、平成元年一二月期には七〇五四万四六九五円(ほか未収利息四〇三万四四五八円)となっている。

(五) そのような状況の下、栄二は、平成二年九月一三日、原告代表者としての地位を保持しつつ、栄一に替わってスズキ鋳鉄の代表取締役に就任し、平成三年七月一八日に栄一が再度代表取締役に就任するまで、その職にあった。

そして、原告は、帳簿上、スズキ鋳鉄から左記のとおり貸金債権の弁済があった旨の処理をした。

(1) 平成二年二月二二日 三六〇〇万円

(2) 同年五月二八日 三八〇万円

(3) 同日 三七〇万円

(4) 同日 四〇一万七五〇〇円

(5) 同年一二月九日 四四〇〇万円

その結果、栄二がスズキ鋳鉄の代表取締役であった平成二年一二月三一日の時点では、原告がスズキ鋳鉄に対して有する貸付金残高は、原告の帳簿上は、一一八万九五三四円に減少した旨記載されており、原告は、それを前提として平成二年一二月期の法人税の確定申告をした。

しかし、原告は、平成三年九月一日、右(1)ないし(5)の記載の返済はなかったものとして、スズキ鋳鉄に対する同額の貸付金を帳簿に再計上した。そして、同月二四日、右(1)ないし(4)については、原告に別途不動産取引に係る収入があったとして、平成二年一二月期の法人税の修正申告をした。

右のような処理をした結果、本件債権放棄の時点(平成三年一二月二七日)で、原告は、スズキ鋳鉄に対し、本件貸金債権(七六二四万九〇六一円)と放棄の対象から漏れた七八八万二五七八円の貸金債権との合計八四一三万一六三九円の貸金債権を有していた。

二  争点

1  原告の主張

(一) 本件各処分は法律に基づく処分であるから、その通知書にはその根拠法を明示すべきであるが、本件においては、その明示がないから、本件各処分は、処分としての体をなしていない。

また、本件更正は、その理由中に、どのような一般に公正妥当と認められる会計基準に従った結果、本件債権放棄による損失の額を損金の額に算入することを否定したのかを明示していない。したがって、本件更正には理由附記の不備がある。

(二) 原告は、本件貸金債権が回収不能であるとして書面により債権放棄をしたものであるから、それによって確定的に債権が消滅し、その結果、「損金経理」(法人税法(以下単に「法」という。)二条二六号)を経由するまでもなく、法二二条三項三号の「損失」が生じている。したがって、その額を損金の額に算入することは、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に基づくものである。

また、法人税基本通達(以下「基本通達」という。)9-6-1(4)は、「債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、その貸金等の弁済を受けることができないと認められる場合において、その債務者に対し書面により明らかにされた債務免除額」を貸倒れとして損金の額に算入する旨定めている。そして、本件においては、スズキ鋳鉄は、その設立時から原告に融資を依頼せざるを得ない状態であり、平成元年以降は、原告に対する債務は七〇〇〇万円前後になり、減少しなかった。したがって、長期間、債務超過の状態が継続していたことになる。そして、原告は、本件債権放棄当時、スズキ鋳鉄から本件貸金債権の弁済を受けることができない状態にあった。したがって、本件においては、右通達に基づき債権放棄額を損金の額に算入すべきである。

しかるに、本件更正においては、本件債権放棄による損失が寄付金に当たるとして、損金算入限度額を超える部分の金額を所得金額に加算している。

(三) そもそも、原告が本件債権放棄をしたのは、刈谷税務署の統括官鈴村明一及び調査官市川佳嗣が、平成三年一〇月、栄二及び原告の担当税理士小出和巳に対し、「スズキ鋳鉄は粉飾決算をしており、会社自体危ない。この際、潰してしまってはどうか。」との話をしたことから、スズキ鋳鉄が右のような状態では、弁済を受けるのは決定的に不可能であり、貸付金をそのままにしておくと、税負担のみが原告にかかると判断したからである。

なお、原告が平成三年九月一日にスズキ鋳鉄からの返済について修正仕訳をしてスズキ鋳鉄への貸付債権を復活させたのは、被告の係官の指示があったからである。そして、原告は、同年一一月、スズキ鋳鉄から以後本件貸金債権を納入商品の代金債権と相殺することにより回収することを拒否されたため、やむなく本件債権放棄を行ったものである。

(四) よって、原告は、本件各処分の取消しを求める。

2  被告の主張

(一) 本件更正の計算根拠は、次のとおりである(以下において、△は、マイナスを示す。)。

(1) 所得金額 △一〇万一八一四円

(欠損金額 一〇万一八一四円)

右金額は、原告の確定申告における所得金額である△七六三四万九六二五円(欠損金七六三四万九六二五円)に、本件債権放棄による損失を寄付金と認定したことに基づいて(損金不算入額の計算過程は、別表2「寄付金の損金算入限度額の計算」記載のとおりである。)、寄付金の損金不算入額七六二四万七八一一円を加算したものである。

(2) 納付すべき税額 △三万九三七三円

(還付税額 三万九三七三円)

右(1)の所得金額を基に、原告の納付すべき税額(還付税額)を算出すると、別表三「還付税額の計算」記載のとおり、△三万九三七三円(還付税額三万九三七三円)となる。

(二) 本件債権放棄が寄付金の供与に当たるとする理由は、以下のとおりである。

(1) 債権放棄(債務免除)と寄付金

<1> 法人が債権を放棄した場合には、その法人の債権の消滅という積極財産の減少(財産上の犠牲)と債務者の債務の消滅という消極財産の減少(財産上の利得)が生ずる。したがって、法人が行う債権の放棄は、法三七条六項に規定する「経済的な利益の無償の供与」に当たり、一種の寄付金(経済的利益)の供与である。そして、そのような寄付金の額の合計額のうち、損金算入限度額を超える部分の額は、法人の所得金額の計算上、損金の額に算入することはできない(法三七条二項)。

<2> もっとも、債権の放棄が当該債権の回収が不能であるためやむを得ずなされた場合には、寄付金の要件である「任意性」が乏しいから、その債権放棄を寄付金の供与とするのは相当ではない。そこで課税実務においても、一定の場合の債権放棄による損失額については、貸倒れとして損金の額に算入するものとしている(基本通達9-6-1)。

しかし、法人の有する債権が回収不能であるかどうかは、単に債務者が債務超過の状態にあるかどうかのみによってではなく、支払い能力があるかどうかによって決定すべきであり、具体的には、債務超過の状態が相当期間継続し、他から融資を受ける見込みもなく、到底再起の見通しが立たず、事業を閉鎖あるいは廃止して休業するに至った場合等、債権が回収不能の状況にあることが客観的事実により確認できる場合に初めて回収不能と認定できるのである(その場合には、やむを得ず放棄したものとして、その損失の額は、損金の額に算入できる。)。

<3> また、債権の回収が不能であっても、回収不能に陥った原因が通常の債権回収努力をしないで漫然と放置したことにあるような場合、あるいは、回収不能になることを予知しながら、債務者が要請するまま貸付けを行っていた場合等においては、債権者法人において、債権が回収不能に陥っても構わないとの未必的意思を有していたものと認められるから、その場合も、右債権放棄は任意になされたものであり、その損失は、寄付金に当たる。

(2) 本件債権放棄の検討

<1> 原告とスズキ鋳鉄との関係

原告代表者栄二とスズキ鋳鉄代表者栄一は、兄弟関係にあり、加えて、栄二はスズキ鋳鉄の取締役であり、栄一も原告の取締役であることなどから、両社はその人的構成において特殊な関係にあった。また、原告は、仕入れのほとんどをスズキ鋳鉄に依存し、スズキ鋳鉄の側でも、原告に対する売上が大きな割合を占めており、両社は互いに密接な取引関係を維持していた。さらに栄二は、平成二年九月一三日から平成三年七月一八日までの間、原告代表者としての地位を保持しつつ、スズキ鋳鉄の代表取締役として、その資金管理を行っており、スズキ鋳鉄は、資金面において、原告から直接かつ強力な監督援助を受けていたといえる。

加えて、原告は本件債権放棄後も、スズキ鋳鉄から仕入れを行い、その代金を支払うなど、従前と変わらない取引関係を維持していたが、このような取引状況は、通常の倒産企業に対する場合には考えられないことである。

<2> 原告の貸付け状況

原告は、スズキ鋳鉄に求められるがままに、同社の信用調査もせず、何らの担保を徴することもなく、支払期限すら定めないままに漫然と貸付けを行っていた。そして、原告のスズキ鋳鉄に対する債権管理は極めて杜撰であったため、本件債権放棄後に、さらに同社に対して七八八万二五七八円の貸金債権を有していたことが判明したが、原告は、この貸付金の返済を求めることはせず、債権放棄もしなかった。

<3> 本件債権放棄の状況

原告は、仕入代金との相殺という方法で、スズキ鋳鉄に対する貸付金の返済を受けていたものの、それが原因でスズキ鋳鉄からの納品が遅延しがちになるなどしたため、本件貸金債権の保全措置を講ずることなく、また、スズキ鋳鉄の資力調査を行うこともなく、本件貸金債権を放棄するに至った。

<4> スズキ鋳鉄の資力状況等

スズキ鋳鉄は、平成三年一〇月三一日現在においては、その公表帳簿上、債務超過の状況にあるものの、設立以来、本件債権放棄後の平成四年四月三〇日に至るまで、売上高は順調に伸長し、本件債権放棄の前後を通じ、事業の閉鎖あるいは廃止により休業に陥ることもなく事業活動を継続していた。また、スズキ鋳鉄は、本件債権放棄の前後を通じ、原告以外の債権者からは、債務免除を受けることもなく、本件債権放棄後においても、債権者たる金融機関に対し、借入金債務を返済していた。

(3) 以上の事実からすると、本件債権放棄は、スズキ鋳鉄が支払い能力を失ったためやむを得ず行われたものとは到底認めることができないから、本件債権放棄は、任意になされたものというべきであり、本件債権放棄による損失は、寄付金に当たる。

(三) 本件賦課決定の根拠は、次のとおりである。

前記(一)のとおり、原告の本件係争年度の納付税額は、△三万九三七三円(還付税額三万九三七三円)であるところ、原告は、これを△二五六三万〇三三四円(還付税額二五六三万〇三三四円)であるとして、過少に確定申告をした。

原告の右過少申告には、国税通則法六五条四項に規定する正当な理由があるとは認められないから、本件更正により新たに納付することとなる税額二五五九万円を基に、同条一項及び二項所定の割合に従い、原告に賦課される過少申告加算税の額を算定すると、三八一万三五〇〇円となる(加算税の基となる税額については、同法一一八条三項の規定により、一万円未満の端数を切り捨てる。)。

(四) 本件更正の理由附記

法一三〇条二項は、内国法人の提出した青色申告書に係る法人税の課税標準等を更正する場合には、更正通知書にその更正の理由を附記しなければならない旨規定している。

しかしながら、本件更正は、原告の帳簿記載の基となったスズキ鋳鉄に対する平成三年一二月二七日の債権放棄という事実は是認した上で、その債権放棄の事実を債務者であるスズキ鋳鉄に対する寄付金の供与と法的に評価・認定したものであるから、その認定の根拠まで更正通知書に記載する必要はないというべきである。まして、原告の主張のように処分の根拠となる法条を摘示する必要は全くない。

そして、本件更正に係る通知書記載の理由は、そのような更正をした根拠について帳簿の記載以上に信憑力ある資料を摘示するものではないが、本件更正が、本件債権放棄の法的評価について、原告と異なる見解を採用したことによるものである以上は、更正処分庁の恣意抑制及び不服申立ての便宜という理由附記制度の趣旨目的を充足する程度に具体的に明示されているというべきである。

したがって、本件更正に係る理由附記は、法の要求する更正理由附記として欠けるところはなく、適法なものである。

第三証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の各記載を引用する。

第四争点に対する当裁判所の判断

一  本件更正について

1  所得金額の認定

(一) 内国法人の各事業年度の所得の金額は、当該事業年度の益金の額から当該事業年度の損金の額を控除した金額であり(法二二条一項)、当該事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るものは、別段の定めがあるものを除き、右損金の額に算入すべきものとされている(同条三項三号)。そして、本件貸金債権は、本件債権放棄により消滅しているから、それにより原告に同条三項三号に規定する「損失」が生じたことになる。

しかしながら、債権の放棄(債務免除)は、他方で債務者に無償の経済的利益を与えるものであるから、それによって債務者に供与された利益は寄付金に該当し(法三七条六項)、寄付金の額の合計額のうち、損金算入限度額を超える部分の金額は、所得の金額の計算上、損金の額に算入されないことになる(同条二項)。

もっとも、当該債権放棄(債務免除)が、その債権の回収不能に基づき行われた場合には、経済的利益の供与があったとはいえないから、当該債権放棄を寄付金の供与として扱うことは相当ではない。

基本通達9-6-1(4)も、そのような趣旨から、実質的に見て経済的利益の無償の供与といえないものを、寄付金の供与として扱わないことを明らかにしたものと解される。

(二) そこで、右の観点から、原告の本件債権放棄を行った当時(平成三年一二月二七日)、本件貸金債権の回収が不能といえる状態にあったかどうかについて検討する。

(1) 証拠(甲三ないし五、乙四、一〇ないし一二、三〇、乙三一の二、三、乙三二の二、証人鈴木栄一、原告代表者)と弁論の全趣旨によると、以下の事実を認めることができる。

<1> スズキ鋳鉄は、平成三年一〇月三一日現在において、当該事業年度中に原告からの借入金を長期借入金として再計上したことなどから、帳簿上、七四四〇万四八六八円の債務超過状態となったが、それ以前には、帳簿上、債務超過に陥ったことはなかった。

<2> そして、設立以後平成四年四月三〇日に至るまで年々売上高は伸長し(昭和六二年一〇月期(昭和六一年一一月一日から昭和六二年一〇月三一日まで)の売上高が四億〇三九六万二八二一円であるのに対し、平成三年一〇月期の売上高は六億五二二五万七二四二円、平成四年四月期(平成三年一一月一日から平成四年四月一日まで。事業年度の変更がなされている。)の売上高は三億九五四一万四四五五円である。)、帳簿上、債務超過状態になった平成三年一〇月期においても、売上総利益は一億一七八八万七五〇二円、営業利益は二八五九万七五九一円、経常利益は三四七万三三八〇円となっており、本件債権放棄後の平成四年四月期(六か月間)においては、売上総利益は一億一七九四万七一四六円、営業利益は二三四六万八九一〇円、経常利益は一六三九万二四六六円となっている。

<3> また、スズキ鋳鉄は、本件債権放棄の前後を通じて、事業の閉鎖又は廃止による休業に陥ることなく事業活動を継続しており、本件債権放棄後の平成四年四月期には、債務超過額が五四三万〇六七八円と減少し、平成七年においては、債務超過の状態ではなくなっている。

<4> スズキ鋳鉄は、本件債権放棄以前から、金融機関や仕入先等原告以外の他の債権者に対しては、ほぼ約定どおり債務の弁済を続けていた。そして、金融機関等に対しては、平成三年一〇月期において二五二一万二六一九円の期中利息を支払い、また、本件債権放棄後平成四年四月三〇日までの間に、短期借入金合計一二七〇万円及び長期借入金合計四七九万五〇〇〇円の返済をした。原告以外の債権者は、本件債権放棄の前後を通じて、スズキ鋳鉄に対し、債権放棄又は債務免除を行っていない。

<5> 原告は、本件債権放棄後も、スズキ鋳鉄との取引関係を継続し、平成四年一月から同年四月までの間に、合計一四四一万六一八六円の仕入代金を支払った。

(2) 右(1)の各事実と第二の一2の各事実によると、スズキ鋳鉄の平成三年一〇月期の債務超過額は、結局のところ、原告からの貸付金の額に見合うものであり、原告の貸付金は、原告がスズキ鋳鉄に対し返済計画を立てさせず、また、時宜に即して債権回収の措置をとることなく、仕入代金との相殺を繰り返しながら、漫然と貸付けを継続したためにその金額が累積した結果生じたものと認められ、しかも、本件債権放棄当時、スズキ鋳鉄の営業自体が特に不振であったとすることはできない。

そうすると、原告は、本件貸金債権を全額直ちに回収することはできなくとも、スズキ鋳鉄に合理的な返済計画を立てさせ、分割弁済をさせれば、長期間を要しても、その回収を期待できる状態にあったものと認められる。

したがって、本件債権放棄の当時、本件貸金債権の回収が不能であったとすることはできない(基本通達9-6-1(4)の「弁済を受けることができない」との要件を充たしていない。また、基本通達9-6-2についても、「全額が回収できない」との要件を充たしていない。)。

なお、長期の分割弁済にすると、その間の利息の支払が問題となるが、重要な仕入先の倒産を防止しつつ既存の貸金債権を回収するため、合理的な返済計画を立てさせた上で、その期間の利息を低率にし、あるいは免除したとしても、そのことをもって寄付金の供与があるとはいえないから、原告において単に利息の計上を避けるために本件債権放棄をしたとしても、やむを得ず行ったものと認めることはできず、寄付金の供与としての任意性を欠くとすることはできない。

(三) したがって、本件債権放棄は、寄付金に該当するところ、原告の本件係争年度における確定申告書(乙一八の一)と決算報告書(乙一八の二)を基に、法三七条二項、同法施行令七三条に従い、寄付金の損金算入限度額及び損金不算入額を計算すると、別表2のとおりとなるから、結局、原告の本件係争年度における所得金額は、△一〇万一八一四円と算定され、本件更正による原告の本件係争年度の所得金額と同額となる。

よって、本件更正における所得金額の算定は、適法である。

2  理由附記

(一) まず、行政処分は、法令に基づいて行われるべきものであるが、一般に、処分の通知書にその根拠法条を記載しなければならないものではなく、本件更正について、その根拠条文の記載が必要不可欠であるとすべき特段の事由を認めることもできない。

(二) 次に、法一三〇条二項は、青色申告に係る法人税について更正をする場合には更正通知書に更正の理由を附記すべきものとしているが、本件更正の理由においては、原告の帳簿の記載を前提とした上、五つの事由により本件債権放棄が回収不能に基づくものとはいえず、寄付金と認められるとした上、本件債権放棄額のうち損金算入限度額を超える額を申告に係る所得金額に加算する旨表示されており、処分庁の恣意抑制及び不服申立ての便宜という趣旨目的を達成することができる程度に具体的に記載されているものといえる。

なお、所得金額の算定方法を定める法二二条や寄付金について規定している法三七条については、専門家に相談をする等すれば右更正理由から容易に判明するところであるから、当該条文の記載まで必要であるとはいえない。

また、寄付金の供与に当たるか否かの判断は、会計基準を適用して行うものではないから、更正の理由中において、どのような会計基準に基づいて寄付金と認定したかを明示する必要はない。

3  よって、本件更正は適法である。

二  本件賦課決定について

右一の1のとおり、原告の本件係争年度の所得金額は、△一〇万一八一四円と算定されるから、原告の平成二年度の修正確定申告書(乙一七の四)を基に、法八一条一項に従い、原告の本件係争年度の納付税額を計算すると、別表3「還付税額の計算」記載のとおり△三万九三七三円(還付税額三万九三七三円)と算定されるところ、証拠(乙一八の一ないし四)によれば、原告は、これを△二五六三万〇三三四円(還付税額二五六三万〇三三四円)であるとして、過少に申告をしていたものと認められ、右過少申告について国税通則法六五条四項に規定する正当な理由があることを認めるに足りる証拠はない(後に判示するとおり、刈谷税務署の職員が、本件貸金債権を放棄すれば、貸倒損失として損金計上できるとの具体的な指導をしたことを認めるに足りる証拠もない。)から、本件更正により新たに納付することとなる税額二五五九万円を基に(加算税の基となる税額は、同法一一八条三項の規定により、一万円未満の端数を切り捨てる。)、同法六五条一項及び二項所定の割合に従い、原告に賦課される過少申告加算税の額を算定すると、三八一万三五〇〇円となる。

そして、本件賦課決定にその根拠法条を記載する必要がないことは、右一の2(一)と同様である。

よって、本件賦課決定は適法である。

三  ところで、原告は、本件債権放棄が、刈谷税務署の統括官鈴村明一及び調査官市川佳嗣が、平成三年一〇月、栄二及び原告の担当税理士小出和巳に対し、「スズキ鋳鉄は粉飾決算をしており、会社自体危ない。この際、潰してしまってはどうか。」との話をしたことに基づくものであると主張する。

しかしながら、仮に税務署の担当職員から右のような話がなされたとしても、当該職員が、本件貸金債権を放棄しても寄付金とはならず、債権放棄額を損金額に計上できるとの趣旨の具体的な指導をしたと認められる特段の事情がある場合は別として、右主張事実のみでは、本件各処分が信義則に違反し、違法であるとすることができない(本件においては、右のような特段の事情を認めるに足りる証拠もない。)。

なお、第二の一2(五)記載のスズキ鋳鉄に対する貸金債権の再計上が被告係官の指導に基づくものであるとしても、再計上が適切でなかったとすべき事情の認められない本件においては、そのことをもって、当該貸金債権の放棄を寄付金の供与に当たるとして更正をすることが信義則に反するとすることはできない。

第五総括

よって、原告の請求は、いずれも理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岡久幸治 裁判官 森義之 裁判官 田澤剛)

(別紙) 更正の理由

貴法人備え付けの帳簿書類を調査した結果、所得金額等の計算に誤りがあると認められますから次のように申告書に記載された所得金額等に加算、減算して更正しました。

加算

寄付金の損金不算入額………七六、二四七、八一一

貴社が有していた西尾市中畑町奥山二〇スズキ鋳鉄工業株式会社(以下債務者という)に対する貸付金七六、二四九、〇六一が回収不能であるとして平成三年一二月二七日付で債権放棄を書面によって債務者に通告し平成三年一二月三一日付で貸倒損失として損金に計上していることについては、下記の理由から回収不能が客観的に確認できないので、かかる事実に基づく債権放棄による貸倒損失は寄付金と認められ、寄付金の損金不算入額七六、二四七、八一一円を所得に加算する。

一 債務者は一度も事業を閉鎖あるいは廃止して休業に至ったという事実はない。

一 売上及び売上総利益率は年々上昇し収益力は高まっている。

一 債務者は債権放棄日の前月まで債務を返済しており、債権放棄以後も債務者からの仕入取引がありその代金を支払っている。

一 債権放棄時、債務者は中京銀行安城支店をはじめその他四行の銀行から融資を受けている。

一 大和グレート株式会社以外の他の債権者は債権放棄をしていない。

別表1

本件係争年度の課税の経緯

<省略>

別表2

寄付金の損金算入限度額の計算

<省略>

別表3

還付税額の計算

<省略>

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